研究所について

理念

差別と闘う研究をめざして
広島部落解放研究所

研究所はいま!
広島部落解放研究所(以下研究所)は、一九七一年に設立されました。それから四六年、運動団体(解放同盟広島県連合会)と緊密な連携をとり、かつ、研究と実践の緊張を保ちつつ、旺盛な研究と教育・啓発の活動を行ってきました。「地対財特法」が失効して、国家・行政がその責務を放棄し、他方で、新自由主義と新右翼主義が吹き荒(すさ)ぶなか、差別の現実が厳しさを増しています。運動と研究は、解放に向け、ますます重要な使命を帯びています。研究所は、今あらためて、そのレゾンデートルに立ち還る、そのような時代認識に立っています。

研究所は、研究と実践のためにさまざまな活動を行っています。

活動

一、研究活動

研究所は、研究と啓発活動を行っています。まず研究です。研究所は、四つの研究部会を設けています。それは、歴史部会(問題の史的構造)、宗教部会(宗教と差別)、教育部会(差別認識と啓発)、国際部会(民族解放と戦争)です。所員はみな、そのどれかに所属することになっています。また、研究成果を問い、補充するために、それぞれの部会が、研修会や講座を開催しています。

広島県内には、六つの解放研究所・会があります。竹原解放研究所、尾道解放研究所、芦府解放研究所、三原解放研究所、福山解放研究会、そして当研究所です。当研究所は、これら研究所とともに研究所連絡会をつくり、年一回、研究者集会(広島県解放研究者集会)を開催し、そこで研究の成果を報告しあい、議論しています。これは、一九九九年に第一回の研究者集会をもち、昨年に第一八回を開催しました。

二、啓発活動

研究所は、その研究成果を教育や行政の現場へ還元しています。また、研究所員のための研修活動を行っています。まず、解放同盟広島県連合会とジョイントするかたちで、年一回、解放・人権啓発講座を開催しています。これには、全国から講師を招き、解放運動および研究活動にとって重要な課題について学習しています。つぎに、解放・人権政策の確立を求める県民集会と世界人権宣言記念広島県集会への所員の参加を呼びかけています。これらの実行委員会に研究所も参加して、集会の企画と実施に関わっています。さらに研究所は、年一回、国内研修を行っています。地元の方々の協力を得て、一昨年は長崎の、昨年は東京・浅草のフィールドワークを行いました。

三、国際連帯

研究所は、国際部会において在日朝鮮人、アイヌなどのマイノリティ問題について議論を重ねています。他方で、解放同盟広島県連合会が、昨年に国際連帯部を設立し、これまでの在日朝鮮人、アイヌとの連帯に加えて、フィリピンの先住民運動との連帯の活動が始まりました。そして研究所員が、それを手伝うことになりました。この経緯のなかで、研究所においても、アイヌ、沖縄、フィリピンなどの先住民の問題が、議論されるようになりました。世界のマイノリティ運動との連帯は、解放運動にとっても、問題研究にとっても、視野を広げ、同時にみずからを対象化して原点に立ち還る、そのようなインパクトを与えてくれます。これから、研究所の重要な研究活動として、国際連帯の研究と思想を深めていきます。

四、調査活動

研究所は、これまで自治体の依頼に応えて、住民の人権意識調査を行ってきました。そのなかで人権意識を分析し、その結果を、説明会などで住民に報告してきました。昨年もある自治体の人権意識調査を行いました。この調査は、研究所員へ依頼されたものですが、同時に研究所の調査活動として位置づけ、その結果を講演会や研究紀要で報告してきました。同じく昨年、解放同盟広島県連合会が、県内の地区住民の生活実態調査を企画し、研究所員がそれを手伝ってきました。それも、研究所の活動として位置づけています。これから、その結果を講演会や研究紀要で報告していきます。問題を研究するには、差別の現実を知らなければなりません。研究が科学であるためには、現実を科学的に分析しなければなりません。そうしてこそ、問題の構造と背景を体系的に理解し、問題解決の方途を発見することができます。調査活動は、重要な研究活動になっています。

五、出版活動

研究所は、書籍と研究紀要の刊行を行ってきました。一九七五年に『広島県・被差別の歴史』(亜紀書房)、七七年に『実践同和教育論』(亜紀書房)を刊行しました。近年では、宗教部会が『経典の「旋陀羅」差別を問う』を刊行しました。書籍の刊行は、研究所の研究成果を世に問うために、今後も積極的に企画していきます。
もう一つは、研究紀要『解放研究』の刊行です。『解放研究』は、一九九四年に創刊号を刊行し、今年(二〇一八年)、二四号を刊行しました。それは、研究所の活動の重要な柱になっています。研究紀要の編集方針は、つぎのとおりです。まず、掲載するのは、現実を批判し、乗り越えるという明確な問題意識がある論文であること。たんなる解説や実態報告は、掲載されません。つぎに、書下ろしの論文であること。とくに忙しい運動家には、ご苦労をかけています。つぎに、査読を行うこと。論文は、運動家から投稿される論文と研究者から投稿される論文からなります。とくに後者には、学術的な査読を行っています。このため編集委員会は、投稿者にリライトを要請したりします。『解放研究』は、研究所の看板として、その編集において、投稿者の問題意識と表現方法に拘っています。そして、自信をもって世に送りたいと思っています。じっさい『解放研究』を、当研究所の所員はもとより、広島県内の学校教員・行政職員・解放運動の方たち、全国の問題関係の研究所、大学の問題関係機関、国立国会図書館や自治体の図書館、ハーバード大学やケンブリッジ大学をはじめ、欧米・アジアの大学の日本(学)研究所(日本語が読み書きできる外国人研究者がたくさんいます)、さらにアメリカ連邦議会図書館へ送っています。そして、いくつかの大学よりお礼と、大学図書館に収めたい旨の手紙を受けています。現代日本の問題の研究は、欧米でも活発です。論文も数多くあります。『解放研究』が、問題研究の国際化に寄与するなら、喜ばしいかぎりです。

広島県では、県教育委員会の「是正指導」と称する同和教育攻撃のあと、多くの教員が、問題の学習から離れていきました。「地対財特法」失効のあと、多くの自治体・行政職員が、問題の取り組みを止めました。状況は、研究でも同じです。研究所の研究・啓発活動も、厳しい状況にあります。それは、権力の思うつぼです。しかし、状況を嘆く時期はもう過ぎました。今こそ、新たな闘いをどう切り拓き、どう構築するのか。研究が差別の現実に向き合う回路は、運動と異なります。しかし研究も、立派な現実変革の闘いです。そのような誇りをもって、研究所は、力強く前進していきたいと思います。